映画『ザ・コンサルタント』抑えたトーン、寡黙な男(凄腕)

裏の顔は凄腕ヒットマン映画。『イコライザー』とかを連想した。主人公が几帳面なところとか。寡黙さでいうと『アウトロー』感も少しあった。

全体的にかなり落ち着いたトーンの演出で、抑制が効いてていいなぁ、と基本的には感じた。

特に冒頭で、メリーベスにレイモンドが選択を迫るシーンで、メリーベスが抑えた表情のまま涙だけ流すシーンとか良かった。「あ、私の人生終わった」っていう絶望感が伝わってきた。

 

また、主要キャラクターそれぞれの設定をちゃんと付けていってるのが良くて、それがストーリー上で明かされていくのが面白かった。

それらの設定を回想シーンで説明するところ(ウルフ兄弟の少年時代やレイモンドの思い出話)はやや停滞感があったけど、初見だと普通に「なるほど」って感じで面白く見られた。もう一回観たら多分退屈に感じると思う。

そして、メリーベスの面接シーンのように、回想シーンを使わず設定を見せる部分は凄く的確に情報を出してるなって感じがした。

メリーベスなら、まず前科者なのにここまで出世してる時点で、優秀さや真面目さが分かるし、レイモンドの脅しにも、絶望はしても取り乱さず席を立とうとする様子から芯の強さが感じられる。この最初のシーンだけで、メリーベスを応援したい気持ちにさせられる。

あと主人公のクリスチャンも、最初のコンサルティングのシーンで、仏頂面で、機械的に仕事をこなそうとする冷たい人かと思わせつつ、実は老夫婦を助けている。この全く相手に媚びることなく人助けをするって、一瞬で多くの人が好きになってしまうパターンなんじゃないかと思う。

それで、どうやらメリーベスはクリスチャンを追う設定のようで、どちらも好意的に描かれているので、これはどう展開していくんだろうなぁ、という期待感を持って映画が始まる。

 

 

そう、キャラクターと言えば、クリスチャンが恋をするデイナも良いキャラで、ヒロインとしてはかなり登場シーンが少ないと思うんだけど、ちゃんとクリスチャンと打ち解ける事に納得感があって凄かった。

ここでデイナの魅力に説得力がないと、クリスチャンのあのクールで高機能自閉症なカッコよさ自体に乗れなくなってしまうと思う。嘘くさくなってしまうというか。

「ここでヒロインを気に入らせないと、後の事件が生じないから」みたいなご都合主義的な好意の生じ方をしていたら、もう台無しだったと思う。

でも、ちゃんと、納得できる形で丁寧に描いていた。リアリティがあるのかどうかは分からないが、少なくともこの映画内の物語としては、僕は自然に見られた。

まず、出会いのシーンでは、クリスチャンがデイナを邪魔くさそうにしてて、かつデイナが結構ウザく見える感じに出会わせつつ、ランチのシーンと、翌朝の答え合わせのシーンで、このデイナのウザさを可愛さに感じられるように、2人の関係性の変化を描いてた。

ここで2人が打ち解けられるロジックに共通の趣味と能力が使われていて、それがアートに対する興味と、会計能力。この2つは確かに、なかなか一般には共通の話題として共有し易いものではないだろうから、この2つの話題でクリスチャンがデイナに心を許していくのに説得力があったのだと思う。なんかこう、分かってもらえて嬉しい感じ。

あとデイナに触れなかったのも良かったな。あそこでやっちゃってたら、何か違う感じになってた気がする。

ランチのシーンで、「大学が楽しさを殺したって何?」とクリスチャンが真面目に聞いて、「いや、ただの表現よ」と不可解に返すデイナに対して、「冗談だよ」とクリスチャンが返すのが妙にリアルだった。

多分、「お前は文字通りに言葉を受け取って相手を困らせることがあるから、そういう時は「冗談だよ」って返せよ」って誰かに教えられたんだろうなぁ、みたいな。ただ一言なんだけど、そういう事を想像させられた。

あとあの薬を飲む前の儀式とかも、これをずっとやって来てる感あったし、動揺してる時に上手く車庫に車を入れられないとか、そういう心理描写も凄く感情が伝わってきてよかった。

 

この映画、人物の描き方が全体的に上手いと感じた。なんか、ダラダラ説明しないで、こういう風に生きてきたのかなぁっていうのが分かる感じ。それも基本アクション映画だから、ドラマ重視で重たくなりすぎない程度に、でもキャラクターとして薄っぺらくならないようにっていう、ちょうどいいバランス。

普通に考えて、デイナは目の前でバンバン人殺されてたのに意外と冷静だし変なんだけど、そのあたりが、アクション映画的なバランスなんだよね多分。

 

 

自閉症父親の教育に関しては、見る人が見ると嫌悪感を感じるかもしれない。

父親の教育に関して、「虐待じゃね?」っていう見方は普通にできると思う。その上で、この映画内では(つまりあの親子の関係の中では)、アレはアレで良いように僕には見えた。

まずクリスチャンが父親を憎んでいない。そして途中で出ていった母が、父と対比的に描かれることで、父がクリスチャンに愛情を持っている事もちゃんと見せる(あそこで抱きしめるシーンが凄く良い)。愛情があるからこそ、将来クリスチャンが悪い奴らの餌食にされないように強く育てようとしていたんだ、っていう父なりの信念も伝わってくる。

良いか悪いかは別として、それはそれで一個のやり方なのかなっていう。結果的にだけど、クリスチャンは父の事を尊敬してるし、ならいんじゃないっていう。

ただ、さすがにあの格闘技の修行のシーンは、映画全体のトーンから浮いてた感じはした。まあ、あっちこっち引っ越してる設定だから整合性が取れてなくはないんだけど、なんかねぇ。『マトリックス』の修行シーンっぽい雰囲気を感じたんだよなぁ。なんか、父のマスター感。あそこだけ対象年齢が下がった感があった。

 

自閉症の描き方はどうなんでしょうね。僕にはよく分からない。が、とにかくクリスチャンはカッコよかった。

クリスチャンが子どものシーン。パズルをずっとやっていて、最後の1ピースをはめる時に、実は絵を見ないで、ピースをひっくり返してやっていたっていうのを見せるとか、「すげー!」演出は小気味よかった。(そのパズルがラストにまた出てきたりとかもするし)

そういうのがある一方で、農場での狙撃シーンとか、襲撃シーンでの狙撃とか、いちいち他のキャラクターに「凄い!」的なセリフを言わせてるところは、なんか締まってないというか、冗長だった。この映画のトーンだったら、感心してる表情だけで十分だろう。凄いのは見てれば分かるよ。

 

 

全体的にアクションシーンも良かったし、銃撃戦も格闘もカッコよかった。キャラクターも良かったし、ストーリーも面白かった。抑えたトーンも良かったし。

強い主人公が敵を倒していくタイプの映画の中では、かなり良い作品なんじゃなかと思う。深みはないけど、その分構えずに観られるし、アクション映画として良い。