映画『イカとクジラ』絶妙に誰にも味方しないバランス

こういう最初から最後まで一貫した分かりやすいストーリーがなくて、シチュエーションの中でエピソードが積み重ねられていく系の映画で、飽きずに最後まで観られるのって凄いなってまず思った。

終わり方も、感じ方は人それぞれなのかもしれないし、「絶妙な終わり方だな」という人もいるかもしれないけど、僕は放り出された感があった。といっても、嫌な終わり方じゃなかった。

というのもこの映画、終止白黒つけない話運びだったから、最後も放り出されるくらいがちょうど良かった気がする。

 

この映画は両親が離婚した4人家族の話なのだが、まあ、子ども1人は置いておくとしても、その他3人がこう絶妙にダメ人間で、いや、クズじゃない辺りの絶妙さ加減が絶妙なんです。意外と良いところもある、と思った矢先にダメだなぁ、みたいな。

まあ、不器用って言うんだろうか。

 

最初は、両親の離婚に振り回される子どもたち的な分かりやすい構図かと思ってみていて、かつ父親の方が偏屈で傲慢だから、単純に父親が悪者で、それでいろいろ巻き起こるストーリーなのかと思っていた。

がしかし、父がしょうもないのはその通りなのだが、母もまた母で浮気性だったり、浮気相手とストーンズの話をしたのは覚えているのに息子や父と観た映画のことは忘れていたり、完璧な優しいお母さんには程遠い。それで意外と父は父で関係回復の為に努力していた部分もあったりして、あ、じゃあ、やっぱり母親の方が悪いのか、と思ったら、やっぱり父の振る舞いを見ていたら「そりゃ愛想つかされるだろ」と思えてきたり。

このどっちが悪いと言い切れない辺りに、妙なリアリティを感じた。いや、僕自身はこういうシチュエーションになったこともないから、これがリアルなのかどうかは分からないけど、でもこのストーリーを見る限り、こういう離婚はどっちのせいとも言い難いなぁ、と思わされた。

それでかつ、弟の方は不安定になって飲んだくれてるし(グレ方としては兄よりヒドイ)、兄は兄で父の影響もあって人間関係が不安定になり、相手を尊重できないダメ男になってしまっている。

 

偏屈で傲慢な父、目移りしやすく無節操な母、ダメな父親を信仰し彼女を雑に扱う兄、罵り言葉を連発し飲んだくれてオナニーしている弟。

すげー家族だな。こう字面で見ると、とんでもねぇなってなる。

でもこれもまた絶妙に人間臭くて、彼らの行動全てに共感できないわけでもないし、「いや、そこはお前が我慢しろよ」って簡単にも言えない感じでお互いに対する要求がもつれてるし、また絶妙にいろんなタイミングがずれて幸せになれない哀れな感じ。

 

言外に表わされる、感情表現が凄い伝わってきた。

例えば、車で帰ってきた父と兄が駐車スペースを探している時に、母と男が一緒にいるのを窓から見つける。「あ、母だった」と気付く頃にはもう車は前に進んでいるが、父の気持ちだけ窓から放り出された感じ。「あれ、ん?あれ、あれは。なんかオシャレしてなかった? ん?」の演出とか凄かった。

しかもそれが息子のすぐ横で、しかも偉そうにうんちく垂れてる最中で起きているという嫌な感じ。しかも「いや、あの服は・・・うん、見たことあるな」っていう言い訳がましさがまた絶妙。

また、母が新しい彼氏と家にいるのを弟に見られて、急いで兄に電話をかける母の焦りとか。この必死に取り繕おうとしている感じ。自分が悪いものとして定着する前に急いで息子の脳を洗濯しにいく感じ。

 

 離婚の後、「いや実はさぁ」という感じで、わざとらしく父が兄に母の浮気について話す。このあたりまでは、父悪者説が有力だった。

観客の立場から見たら「そりゃないよ父さん。タイミングってものがあるじゃないか」と思うわけだけど、実は母は結構な浮気性だということが分かって、母に対しても「いや、浮気してたのかい。しかも結構な人数!」という呆れも同時にあって、この辺が絶妙なんだよ。

とにかくこう、不穏な感じの描き方が凄い上手かった。ホラー的な不穏さじゃなくて、人間臭い不穏さ。なんだろう、「嫌われたくない」という恐怖心や「優位に立ちたい」という支配欲が底にある不穏さっていうんだろうか。

 

でも父にしても、母にしても、なんかこう、お互い優しくなりきれないのも分かる気がする。

父に関しては、昔は売れた作家だったのに、もう長いことスランプなんだろう。この解消されることのない欲求不満。しかも、父に影響されて書き始めた母の方が世間に評価され始めたりして尚更。

保護者面談のあと、学校の先生が母に向かって「読みましたよ!素晴らしかったです」というシーンの、その褒め言葉の為に足止めされている父の胃もたれを感じた。

そして終始繰り出される過去の女の話から、母と結婚したことでいろいろ我慢してきたのは事実なんだろうと思われる。いや、それは結婚してるんだから当然だし、それだけなら別に同情しないけど、そんな自分をよそに妻がバンバン浮気してたら「なんでじゃコラァ」ってなるだろ、とは思う。

母は母で、せっかく世間から評価を受け始めたのに、「世間はバカだからな。大衆に受けるのは下らない本ばっかだからな」と家の中で終止小言を聞かされたり、思春期になってそろそろ対等に話ができそうな兄は父の言うことばかり聞いて自分のことを軽んじてくる。

しかも、そもそも浮気性なのだから、大人が誰も相手にしてくれない家の中がストレスフルだったことは想像に難くない。

いや、だから両方とも肯定はできないんだけど、でもこういう状況に陥ったら、悪循環を断ち切って上手く回すエネルギーは、普通の人はなかなか持てないだろうって感じがした。

 

とにかく、微妙な空気感が感じられる映画だった。

そして結構可笑しさを感じられた。一番笑ったのは、父が「もっと努力すれば一緒に暮らせるか?」と聞いた時に、母が皮肉交じりに呟く「バーガー(笑)」というセリフだった。

 

 

------

 

d.hatena.ne.jp

町山さんの記事があった。

なるほど、両親もただの人間だと子どもが理解する映画なんだそうだ。反抗期の終わり的な。

過度な信用と、過度な期待ゆえの怒り。それを描くための両親の人間臭さだっていうことか。

なるほど。

僕は4人家族まんべんなく描かれているなぁ、という印象だったんだけど、たしかにクライマックスにかけては兄に焦点が移っていっていたし、そういうことなのか。

 

 

 

関連作品

 

不完全な大人が苦悩する話。大人の方に焦点が当たっているし、哀しい結末。

 

 

「パーフェクト」じゃない親と、それによって変化する家族の形。

 

  

同監督作品。