映画『ワッフル・ストリート』実話ベースとは思えない軽さ

つまらなかった。

実話ベースにも関わらず、主人公ジミーが風船みたいに中身のない人間にしか見えない。本当の話なんだろうから、この男は本当にいたんだろうけど、全然人間臭がしない。描き方って大事なんだな、と思えた。

 

まず、全体的に悲壮感がゼロ。絶望感がゼロの映画。

失業して再スタートという映画だからといって、必ずしも苦しく描く必要はないと思うけど、でも主人公のストーリーに苦しみが伴わないと、応援する気にもなれないし、共感もできないし、なんていうか、スーパーマンみたいにしか見えず、嘘っぽくて気持ちが乗っかっていかない。

ちょこちょこ挟まれる妻との口論も、そのシーンが終わったらそれ以上引きずらないし、子供も生まれるのにウェイターみたいな仕事しかできていないことに対する焦りも全然感じない。

周りの人たちとの関係も、凄く記号的で、「はい、嫌な上司」「はい、良い年上の先輩」「はい、前科者とも仲良くできるよ」みたいな。結局ジミーって誰とも打ち解けてないし、誰ともケンカしないし、誰のことも憎まず、誰のことも愛さない。

 

ストーリーとして、全体的に「お金がない」というシンドさが全然描かれない。

クレジットカードが通らないというシーンはあるのだが、その後の病院での支払いは問題なかったのか。まあ、保険か。でもクレジットカードが止められ始めているのに保険料が払えないとかっていうこともない。いや、現実的にどういう支出の仕方をしているのかは分からないわけだけど、何にしたって、生活が苦しそうではない。

家や車を売ったりしているが、それも店を買うための資金であって、生活のために売っているわけではない。

まあ、前職の稼ぎが良かったのだろうから、貯金や退職金が大量にあったんだろう。でも、その時点で、多くの人からしたら「良い境遇で良かったね」ってな話で、このストーリーを見て、自分も頑張ろうとか思えるようなものではない。

 

何より、ジミーという人間が本当にロボットみたい。

ウェイターの仕事に苦労しているが、精神的に追い込まれている感が全然ない。トイレ掃除にしても、嫌な客に対する接客にしても、仕事のミスにしても、なんか、「接客業の大変さってこんな感じでしょ?」というような感じで、記号的にしか見えてこない。

いや、酒飲んだ奴らがわんさか来たら、あんなもんじゃ済まないだろって思うし、嫌な上司もあのくらいだったらまあ別にいんじゃね、っていうくらいでしかない。

 

妻との関係も、支えてくれる良い妻なんだけど、ジミーの行動に不安になって泣いたりしているが、でもそれもシーンが変わると元の関係に戻っていて、ジミーともども嘘くさい。

妊娠して、家もほぼ勝手に売られて、将来不安なのに自分は仕事できなくなって、にも関わらず夫はウェイターを辞めて良い仕事に就く気はなくて、という状況で、あの精神状態でいられないだろ普通。一回泣くシーンを見せて「はい、彼女も苦しんでますよ」という言い訳的な展開だけ見せたって、それでキャラクターの厚みが出るわけじゃないから。

 

で、ラストどうなるかというと、結局ワッフルの店はやめ、自分の学歴や資格を活かして小さな金融コンサルをやるっていうオチになっている。

いや、別に間にワッフル挟む必要性を感じない。

いや言わんとしていることは分かる。つまり、金融の仕事に嫌気が差していたけど、ファストフード店で働いたことで、自分が相手をするべき人たちがいると気づいて、自分の能力と掛け合わせてそういう仕事にしたんだっていうことだろう。

いや分かるけど、結局、前の仕事をダウンサイズして上手いことやりましたっていう話で、やっぱり結局、ファストフード店で働いた経験は関係ないだろ。

ジミーがこの経験で得たことは、「自分はレストランのオーナーになりたくはない」ということと、「金融コンサルが必要なのに届いていない人がいる」ということだけで、それはファストフード店1000時間の経験とは直接的に関係ないよね。

 

ジミーの人生には問題がなかったんだよ。

生活していくお金もあったし、なんだったら融資してくれる親族もいるし、資格や学歴やキャリアもある。ジミー自身なんでもやる気を出せる人で、ファストフード店で働くことすら苦痛には感じていないし、そういう乗り越えるべき価値観の壁もない。妻も文句は言いつつもなんだかんだで付いてきてくれるし、孤独になったりもしない。いや、だからスーパーマンなんだよ。

まあ、ちょっと人生の岐路に立ってアルバイトとかしてみたよ、ぐらいの話でしかないだろこれは。1000時間働いたのは偉いけどさ、でも1000時間が目標じゃなくて、日常として過ぎていく本当に苦労している人だって普通にいるわけだし。

苦労して底から這い上がってきたって話でもないし、その道中でいろいろ失ったって話でもない。

 

実話だから、本当はもっといろいろドロドロしたとことか、シンドいとことか、だからこそ本当に感動的な話とかあったんじゃないかって気がする。

なんか、「俺はこうして成功したぜ」的な、臭い部分を排除して、かっこいいとこだけ見せてるんじゃないかっていう疑いが拭えない。そこを隠して人を感動させることなんてできないだろ。