映画『この世に私の居場所なんてない』面白いが何かが引っかかる

ヒューマンドラマを期待してみたら、全然違うクライム系の映画だった。

面白かった。やや無理のある設定だと思うが、主人公ルースのストレスの描き方も丁寧で説得力がある(冒頭のシークエンスとても良い)し、相棒トニーは内面をそこまで深掘りせず、「とにかく良い奴」くらいにしてあるので、キャラクターとしての魅力はありつつ、彼の行動に変に違和感を感じないようなバランスになっている。

後半にかけて話がどんどんドライブしていく感じも良かったし、意外とエグい描写をちゃんとやっているので、それとの対比で見えてくるルースの一般市民然とした振る舞いが笑える。

というか、ルースの一般人感が本当に凄い。なんか、映画に出なそうな感じ。顔っていうか、体型なのか、なんか「マジで道歩いてそう」みたいな一般人な感じが凄くする。凄く良いキャスティングだと思った。

ストーリー的には恐いことが起きているんだが、あまり恐い雰囲気にせず、コメディっぽく見せつつ、映像的にはバイオレンスを描いているし、意外と過激だしで、面白かった。

 

ただ、なんか、あんまり素直に「めっちゃ面白い!」って言えない感じがある。

 

まず、単純に「危ないからやめとけ!」っていう気分になる。

この映画では、前述の通り、危ないことをある程度コメディタッチで描いている。それ自体はもちろん映画だからいいのだが、「空き巣に入られる」っていう被害が妙にリアルだからか、悔しいのは分かるけど、ほんと危ないからやめときなよぉ、っていう感じに前半はなってしまった。

現実にありそうな危険がコメディでゆるく回収されていく展開にいまいち乗れなかった。

もちろん「この映画に影響されて犯罪に巻き込まれる人がいたらどうするんだ」とか言う気はない。映画だからいいんだ。でも、なんか、そういうちょっとモヤッとした気持ちを持ってしまったことは事実。

 

それと、ルースが盗難にあって怒っているのは分かるが、さすがに、最初のパソコンを取り返した相手は可哀想じゃないかっていう気がする。盗品の売買はいけないが、彼らは知らなかったかもしれないしお金も払ってた。別にルースたちに暴力をふるったわけでもない。悪役として、「取り返されても当然でしょ」みたいな描き方をされているのはどうかと思った。

質屋の親父は、明らかに盗品かどうかとか気にせず商売してるし、ルースの指を折ったからね、まあ仕方ないんじゃないかと思う。

 

それで、途中でルースに、ある人が「それで犯人見つけてどうすんだよ?」と質問する。そう、僕もこれ思ってた。

だって、警察に引き渡すにしたって、警察動く気ねぇし。まさかボコボコにしたいわけでもないだろうし、可能でもないだろう。盗品はもう手元に戻ってきているわけだし、何がしたいの?と。

そしたら、「話したいんだ」みたいな。

まあ、ルースのストレスは「世の中みんなクソな奴ばかり」というもので、それが彼女のストレスの原因になり、彼女を行動に駆り立てている。

「人がクソにならないこと」を目的にし、その為に「話したい」という期待を持ったルースの行動は、たしかに感動的ではあるんだけど、犯人の悪辣な描写を見た後ではリアリティがないし説得力もない。さすがに映画だとしても、そこに賛同する気になれない。

なので、中盤までルースの行動に面白さを感じつつも、いまいち乗れない感があった。

 

 

で、クライマックスに向かって、実際にひとりの人が死ぬ(ここの殴られて思いの外、重傷でパニックになるシーン良かった)。そのあたりから一気にバイオレンスになっていくんだが、ここまで来ると、わりと普通に楽しめた。

もう日常の中で闘っているという危うさがないから、あとはどう切り抜けるのかなっていうモードで見れた。

そして、実際、思ったよりヒドイことになっていって、そのへんで一気に「この映画、面白い」と思い始めた。

それで、クライマックスまで凄い良い感じでストーリーが進んで、「前半いろいろ感じたけどめっちゃ面白い映画だ」と思いながら本筋を見終わった。

 

で、問題はその後で、一応後日談があるんだが、そこで、最後にサービス的な展開が用意されている。それがまあ、別に良いとは思うんだが、僕は「要らないだろ」と思った。

というのも、前半に感じていたモヤモヤした感じは、クライマックスのある展開によって納得させられていたというか、「そうだよなぁ」っていう展開になっていた。だからこそ、僕は「めっちゃ面白い」と思った。

なのだが、最後の最後でそのサービスしちゃうのかっていう。なんだかなぁ、分かるけど、違うんじゃないか。

 

全然関係ないけどこの監督、ヒューマンドラマ撮ったら凄い良いんじゃないかって勝手に思った。

日常のちょっとしたストレスの描き方が上手かった。小さなストレスや、被害と言っても空き巣だから、凄いショックを受けてるのに、警察も友人も「はいはい」って感じで真面目には取り合ってくれない感じ。

「お前が隙を見せたから狙われるんだよ」っていう、まあ、正論かも知れないが、そもそも社会がそうならないことを考えたいじゃん!みたいな。なんかこの、そっちが言ってることも一理あるの分かるけど、でもそれがまかり通ったら大変だろ、って言いたいけど、でもどうせ言っても聞いてくれないのは分かっている、みたいなストレス。

この「世の中クソだな!」っていう感情を軸に、ドラマ中心の映画を作って欲しいなぁ。