映画『人生はビギナーズ』死がそっと背中を押す

あらすじを読んだ印象と全然違った。ゲイの父親に振り回される的なコメディかと思いきや、けっこう重め。とはいえ、ズーンと胃が痛くなってくる感じではなくて、トーンとしては軽快で、しっとりしてる、と言えばいいんだろうか。

 

う〜ん、どう感想を記録すればいいのかがやっかいな映画だと思っている。とりあえずかなり面白かった。

 単純に捉えれば、その性格ゆえに孤独な男オリヴァーがいて、それが最終的にヒロインのアンと真剣な付き合いを始める、という話がメインで、ゲイの父親の話は回想としてこのロマンスの間に挟み込まれるサブストーリーになっている。

 

で、この孤独の原因が、先読みして考えすぎるオリヴァーの性格や態度であって、このオリヴァーの性格を変えたのが、恐らく、父と過ごした数年と父の死、その後のアンとの出会いだった。

 

とはいえ、こう、感想を書きにくいのは、論理的にここがこう繋がって、こういう風にオリヴァーを変えたんだ、みたいな分かりやすい筋があまり見つけられなかったから。

 

そもそも、アンとの恋愛は、父が死んで数ヶ月後から始まっているから、父の死が直接的にオリヴァーの生き方を変えたわけではない。オリヴァーとアンは一度破局しかけるし、その時にはオリヴァーはまだ変わっていない。

だが、その後、オリヴァーが考えを変え、やはりアンとの関係を繋ぎ止めようとする意志には、父との生前の生活や、父の死が必ず影響しているはずで、だから、そういうストーリーにはなっているのだが、「この部分」と指させるようなエピソードがない。

ただ、話全体として、オリヴァーの変化に確かに納得できるようになっている。

父の最後の人生を謳歌する姿勢と死、その後のオリヴァーの孤独。それからアンとの出会いと関係。この2つが重なったからオリヴァーは変わったのであって、父の件で変わってアンと付き合うという順番ではない。

人の変化って実際はこういうものだろうなって思う。点で変化するような劇的なことなんてほとんどなくて、本当は線のグラデーションで人は変わっていくんだろう。

 

この映画がどう面白かったのかをいまいちよく言葉にできない。

孤独がテーマの映画である。孤独といっても物理的にひとりなのではなく、周りに人はいるのだが、心が満たされない感じの孤独。

そして、美人と恋愛する羨ましい映画である。アンは実際めちゃくちゃ魅力的に描かれている。オリヴァーとアンの関係も、見ていてとても心地良いものである。ちょっと無茶する遅れてきた青春的なエピソードも良い。

ゲイの父親ハルもとても魅力的であるし、彼の周りにも本当に良い人たちが集まっている。オリヴァーとハルの関係も良いものである。母親とハルの関係も、オリヴァーが物心つく頃にはすれ違っていたとはいえ、実は感動的だったということも分かる。

母が死んでゲイとしての人生を始めた父。父が死んで人と繋がる人生を始めたオリヴァー。「死」という意志と関係ない出来事が、周りの人の意志を変えていく。強烈にではなくそっと背中を押していく連鎖の時間、みたいなことだろうか。

 

うーん、やっぱり言葉にできない。とにかく流れている時間と、キャラクターたちが好きなんだ。