映画『グエムル-漢江の怪物-』全然B級じゃなかった

いや、別にB級映画と巷で言われているわけじゃないと思うけど、なんかビジュアルを見るだに勝手にそう思い込んでいた。最近観た『オクジャ』がとても良かったので、同監督の作品ということで観ました。

やっぱりポン・ジュノ監督って好きかもしれない。映像的な緩急が本当に凄く気持ちいいし、それが、ストーリー的な抜き方とか、キャラクターのボケとも相まって、凄く雰囲気がいい。

起きてることは深刻なんだけど、笑わせるし、笑ってると、「うぉぉぅ」みたいなシーンになったり、映像リズムのセンスがずば抜けてると思う。

 

他の映画は知らないが、『オクジャ』もこの映画も、かなり寓話的なストーリーである。映像的にも、絵っぽいシーンが結構挟まれていて、特に水平な構図っていうんだろうか。こう、真横から撮っている絵、ウェス・アンダーソン的なやつ。そういう絵が結構出てくる。

冒頭の研究室の絵、グエムルが登場する直前の絵、ナムジュが川の中を隠密移動する絵、カンドゥが脱走する場面の絵。

この水平構図の絵って、リアルティが薄い。演劇的(舞台的)に見えるというか、作り物感が出る。それはそうで、日常の視界でああいう絵の位置で光景を見ること少ない。そういう意味でリアリティが薄いのだが、この映画のように寓話的な映画ではむしろ良い。

この映画では、結構重い展開もあるし、グロいシーンはないとはいえ(これは意外だった。内蔵とかは出てこない。ガイコツは出てきたけど)、ショッキングな場面はある。そういうシーンとの対比としても、この寓話的な絵は、映画全体の構成の中でとても気持ちよく見えてくる。

あと、水平構図以外でも、最初の川に投身自殺するシーンとか、ナムジュの隠れ家起床シーンとか、ビールを開ける度にプシュ~っと中身が飛び出してきたりとか、アニメっぽい雰囲気もあったりして、なんか、そのへんのバランスがとても気持ちいい。

 

あと『オクジャ』もそうだった気がするけど、ひとつの画面構成の中でいくつかのことが起きている、という見せ方が上手いなぁと思う。

長いカットの中で、最初は手前でいろいろ起きていて、そうすると後ろの方で目立つ人がフレームインしてきて、何かが始まるとか、俯瞰で撮って、画面の下側と上側では違う状況が繰り広げられているとか。

このワンカットで見せる迫力(グエムル登場シーンでヘッドフォンの女性が襲われるとことか)や、可笑しさ(お葬式シーンとか)があって、「映像観てる!」という気持ちになれる。

いや、僕が気付いてしまうくらいだから、こういうのは凄く教科書的な見せ方なのかもしれない。でも、やっぱり、凄くいい。映像でストーリーテリングしていくってこういうことなのかぁ、と思わされるようなところがある。

フレームの中でいろいろ起こすというのもあるし、フレーム外で実は何かが起きていて、それがカットが切り替わることで分かるっていうようなシーンもある。ヒョンソと間違って他の女の子の手を引いていたシーンや、逃げようとしたヒョンソがグエムルに捕まるシーンとか。

それから、部分を見せて何が起こっているのかを見せるシーン。例えば、引き金を引いて弾が出ないというシーンがあるんだけど、そこでカンジュが指を折って数を数えている手のアップになったり、ラストシーンでも、グエムルに刺した棒を握るカンジュの手から力が抜けることで、勝利を描いたりしている。

いやホントに、こう自然と能動的に観るように誘導されている感じがあって、それも「映像観てる!」という喜びに繋がっているんだろうなぁ。

 

それから、やっぱり気の抜けたキャラクターたち。この映画は特にナムジュかと思うけど、やっぱり最高にいいですね。いや、ナムジュほんとに良かった。

バンに乗って病院から脱走するシーンがあるんだけど、そこのナムジュがもうホントに最高だった。

「いや、走れよっ」と思いながら爆笑しました。「え、なんで?なんで歩いてんの」と思いながら爆笑しました。

この映画はホントになんか、真剣な展開になってきたな、と思っても笑わせるシーンがしょっちゅう挟まれる。いや、あの裏切り先輩の最後のグーポーズなんだよ、みたいな短いのもあれば、父さんの長々な意味ありげで意味ない説教で寝たり。

でもこの居眠りの緩みの後、寝ていたはずのカンジュがスッと目を開いて、近くにいたグエムルを見ているというシリアスシーンになる。このキャラクターの視線の移り変わりで場面を移行していくのとか、ホントにカッコいい。

 

という感じで、ストーリーにせよ映像にせよキャラクターにせよ、凄いハイクオリティのエンターテインメントだった。

グエムルの形とか、武器として弓矢が出てきたりとか、なんかねぇ、B級感がありありなんだけど、笑える、深刻、熱い、ハラハラ、そういう要素がちゃんとみっちり詰まってる。

 

ラストシーンをどう受け取るかは観る人によるだろう。

世界に翻弄される個人が、ただ個人的に生きている姿に僕には見えた。といっても、カンジュだから、「覚悟」とか「静かなる抗議」とか、そういうイデオロギー臭のあることではなくて、なんかこう、目の前にあるものがまず大事だよねっていう、素朴な雰囲気があって、とても良かった。

そう、思い返せば、最初のグエムル襲撃のシーンでも、カンジュって「とりあえず目の前の人を助けなきゃ」っていう原理で動いているように見える。計算とか全くなくて、とにかく目の前の人をっていう。それって神ではない、人間のできる正義なのかもしれない。

そして、このラストシーンで、「飯だぞ」と言われた子供の起き上がるスピードが凄い。「いや、お前絶対起きてただろ」っていう。ここも演技が下手なんじゃなくて「抜き」なんだろうと思う。いや分からんけど。そう思える。

 

 

 

関連作品

 

 同監督作品。

 

 

 同監督作品。

 

 

 家族の死によって家族が一致団結する映画。