映画『プラネット・テラー』 の感想

この映画は、タランティーノの『デス・プルーフ』と2本立てで公開された企画物で、いわゆるB級映画を再現したものなので、「あんまり真面目に見るような映画でもないんだろうな」と思いつつ、観たのだけど、これがメッチャ面白い。

僕自身は、いわゆるB級映画に親しんだ人間ではないので、この映画の意図した部分というのは体感として理解することができない。だから、それを踏まえた感想は書けないのだけど、でも映画自体が凄く面白いので、あくまで素直にこの映画を観た感想を書くことにする。

140714-capture01B級映画に親しみがないと言っても、何となく安っぽい感じというのは分かる。この映画でいうと、まずゾンビ物であり、出てくる女性キャラクターがむやみにセクシーだったり、とにかく銃をぶっ放したり、無意味に何かが爆発・炎上したり、無理のある設定が大量にあったりする。それから、けれんみたっぷりな演出。

色っぽかったり、迫力があったり、グロテスクだったり、画としての見栄えがまずあるが、それがストーリーに対して過剰であり、ストーリーとは個別のこととして起こったりすると、ツッコミどころになる。

「抑制の効いた演出」という言い方があるが、「全く抑制する気がない演出」とでも言えるのではないだろうか。といっても、それも踏まえてちゃんと演出してあるんだろうとは思うけど。

とにかく、次から次に、エロスとグロテスクとアクションが起こっていく。それこそ、「いちいち細かいことにつっこませない」くらいの勢いだし、観ているこっちも、いちいち細かいことにつっこむのもアホらしくなる。「そんなことより面白ぇー」となる。

 

で、何がそんなに面白かったのか、と考えてみる。

ストーリーはどういうものかというと、簡単に言うと、あるグループのビジネス交渉が失敗して、町中にゾンビウィルスがばら撒かれる。感染者多数の中、感染しない人間が、協力しながら戦って町から脱出しようとするが、前述のグループに捕まる。そのグループを倒し、ヘリで町から脱出し、新天地へ向かう。

普通の話だ。そりゃ、町がゾンビで一杯になったら町から逃げ出す。別になんてことない話なんだけど、何がそんなに面白かったのかというと、僕としては、程好いグロさでギャグが笑える。それに何より、"こういう映画”でないと、いちいちツッコミを入れて白けてしまいそうな設定やアクションを素直に楽しめる。その上、キャラクターがどいつもこいつも魅力的でカッコイイし、キャラクター同士の関係性も見応えがある。

男も女も味方も敵も含め、ルックスも性格も魅力的。キャラクターがリアルでなくマンガっぽいのも、映画のテイストと合っていていい。

 

140714-capture02チェリーは、自信を失っているのか傷心気味で、客前で泣いたりするが、それを上司にとがめられると中指を立てるような勝気な女性である。この映画の中で、エル・レイに支えられながら強くなるキャラクターで、周りに甘えたりせず、前向きに自分のやるべきことをやる。応援したくなるようなキャラクターで、カッコイイ。

140714-capture03エル・レイは、まず強い。「弾は外さない」が口癖で、この映画の中でエル・レイと対峙して勝てる奴はいない。一見チェリーに冷たいように見えるが、本当はチェリーの強さを信頼しているが故だということが会話の中で分かる。

140714-capture08まず、この主人公2人の関係がなかなか良くて、最初のレストランでの会話で、すでに2人の関係性が伺える。とにかくエル・レイがチェリーに気兼ねなしにズバズバ物を言う。それこそチェリーに「率直なのと嫌味なのは違うのよ」と言われてしまう。

でも、多分エル・レイは嫌味を言っているのではない。チェリーは医者にはなれなかった、と言うのだが、エル・レイは「本当に? なれると思ったのに」と言う。これはお世辞じゃなくて、本当にそう思って言っているんだっていう気がする。エル・レイはそれくらい、チェリーのことを認めていて、それゆえに気兼ねなくものを言っている。

 

その後のシーンでチェリーは右脚を失う。そして、町中にゾンビがあふれる中、エル・レイは、チェリーを助けるためゾンビだらけの病院に駆けつけるのだが、チェリーは、右脚を失ったショックから立ち直れずにいる。

そこでエル・レイが優しく励ましてあげるかというと、そんなことはしない。「さっさと立て。つまんないことでメソメソするな」と、まさかのキレ気味。チェリーが「脚がないのよ!」と訴えると、テーブルの足を、彼女の脚に繋いで、「これでどうだ」と言って病室から連れ出す。

脱出の為トラックに乗るときも、乗るのを手伝ってあげるどころか、彼女が乗る前に走り出し、彼女は、木の棒の脚でよたよたかけながら、ドアにつかまってどうにか車に乗り込む。

 

なんちゅーひどい男なんや! と思うんだけど、チェリーが「何でこんな目に」とぼやくと、エル・レイは「強いままでいてくれ(Stay strong)」と頼む。チェリーが「Stay?」というと、「Yeah baby, stay」という会話がある。

これはエル・レイのチェリーに対する信頼を表している。チェリーは強い女性だとエル・レイは信じている。だから率直にものも言うし、甘やかしたりしない。そしてこの信頼は映画のクライマックスに向かって、大事な役割を果たす。

強いエル・レイと、エル・レイの信頼によって強くなるチェリー。この関係は面白いし、ここでは弱さの残るチェリーが、クライマックスでゾンビを撃ち殺しまくるのだから、当然カタルシスが生まれる。140714-capture04

 

医者夫妻は、夫は敵に、妻は味方になるが、夫の不気味さはゾンビ以上の怖さがあるし、妻の方の不幸たるや、夫に殺されかけ、手首が折れ、ベビーシッターを頼んだティーンエイジャーに襲われ、自分のせいで子供が死に、と大変なことになっている。

140714-capture05しかも、この妻:ダコタに降りかかる不幸は、全部人間相手であって、ゾンビではない。これだけゾンビのおぞましい所業を見せられていても、「負けず劣らず人間怖ぇー」となるための不幸者として描かれていて、かわいそう。

それからダコタの父:アールは、登場するシーンこそ少ないものの、僕個人的にはこの映画で1番カッコイイ。このアールというキャラクターはかなり意図的にそういう風に作られているだろうと思う。登場すると活躍し、危ない場面でも冷静で、しっかり生き残る。いぶし銀というか、とにかくカッコイイ親父だ。140714-capture06

 

それからJTとヘイグの兄弟は言わずもがな。

 

140714-capture07あと、悪役:マルドゥーンで登場するブルース・ウィリス。やっぱブルース・ウィリスかっけーな。表情も動きも喋り方もかっこいい。というか、この映画に出ていることがブルース・ウィリスのかっこよさなんじゃないかと思う。(トラブル・イン・ハリウッドという映画を観たときも同じこと思ったな)

 

ということで、キャラクターやその関係が魅力的で面白い。多分、本当のB級映画で、ここまでちゃんと人物を魅力的に描いていたり、その関係とストーリーをちゃんと合わせて作っているものはないんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろう。

 

で、やっぱりこの映画が良いのは、前述したけど、"いちいちツッコませない”ということだと思う。(ツッコむ人もいるとは思うけど)

この映画で起きている事というのは、マンガならわりと違和感なく読める気がする。しかし実写になると、実写のリアリティーに引っ張られることによって、違和感満載で白けてしまうような内容だ。お話的にも画的にも。

140714-capture09しかし、「B級感」という制約をあえて設けるとで、あまり実写のリアリティーに引っ張られることなく(つまりツッコませない)、マンガの楽しさを実写でやった、ってことなんではないかなー、と思う。というか、僕はそういう楽しさでこの映画を観た。

 

映画『マトリックス』がCGを使ってアニメを実写化したように、この映画は、あえて古いくさい技術や手法を使うことで、マンガ的な話を違和感なく実写化したように思う。例えば、画面のザラつきや色調は、実写の画面をアメコミっぽくマンガ的に見せているように感じる。140714-capture10

さらに、極端なキャラクター性(足がマシンガンとか、素性を隠した最強の男とか、注射器が武器とか、ヘマな警官とか)、ありがちなキャラクターや、ありがちなセリフ回しを入れることで、この映画のフィクション度(それらがアリな世界観)はさらに高まって、そうすると、いちいち「現実的なツッコみ」なんていうのは、するのがはばかられる。

そして、思う存分、この映画内の世界と、そのかっこよさや、グロさや、ギャグを楽しめる。