映画『かもめ食堂』

「空気はいいが、内容がない。」

というのが、大体この映画の一般的な評価な気がする。この映画は、酷評もされ、高評価も得ている。好き嫌いが分かれる映画らしい。

同じ「好き嫌いが分かれる映画」にも、映画としてのクオリティはあった上で分かれるものもあるだろうが、この映画は、映画としてのクオリティが低いが、それが良いという人達と、そこに苛立つ人達で、評価が分かれているような感じだ。

つまり、「ストーリーがない」「淡々としている」というのを、「つまらない」と言う人と、「ほっこり癒しがあって良い」という人で、評価が分かれている。

 

で、僕は、肯定派が言いたいことは分かるが、それにしたって甘ったるすぎると思う。まあ、絵本みたいなお話で、ご都合主義。嫌な要素を全て排除して、ただただ観る人を気持ちいい空気に誘い込むだけの映画だ。

「気持ちいい空気に浸れるならいいじゃないか」というのが肯定派の意見だろうし、それは僕も否定しないが、正直言って、誘い方が見え透いていて、逆に居心地が悪い。このあからさまな誘いに、素直に乗れる人と、安っぽいなと敬遠する人で、評価が分かれるのだろう。

 

ただ、僕が嫌なのは、この映画を、普通に良くできたウェルメイドな作品だと思って、「この映画の良さが分かる私」を変に意識している人。

いわゆるこの映画の良さは、この映画が好きな人も嫌いな人もちゃんと分かっているはず。それは前述したように、「葛藤や面倒ごとが排除され、気持ちのいいことだけが起き、最後には全て上手くいきました」という淡々とした癒しだ。嫌な言い方をすると、観客を甘やかしている。

そして、思春期も越えた大人なら、過剰に甘やかされると、普通は居心地が悪かったり、子供扱いされているようで嫌な気持ちになったり、苦労のなさゆえの退屈に陥ったりするんじゃないだろうか。

そこで、この甘やかしを、退屈と知りつつ「癒し」ととる人と、ただ「退屈さ」ととる人に分かれる(退屈とすら思わない人もいるようだが)。多分、映画を観る姿勢とか、この映画を観たときの気分でもだいぶ見方は変わるだろう。

 

だから、僕は別にこの映画を何も良いところがない0点な映画、とは思わない。

僕としては、始まりの方はかなりいいと思って見始めた。外国に日本人が一人で経営する食堂という設定と綺麗な映像が主な要因だ。それと役者も良いと思う。それこそ、観ていてほっこりするようなキャスティングで、これも「癒し」の効果を強めていると思う。

・・・正直言って、これだけの映画だ。

 

話が進んでいくにつれ、ホントにただただご都合主義の映画になっていく。で、監督のご都合とは何かというと、「ほら、こういうの素敵でしょ」というご都合だ。「こういう女性素敵でしょ」「こういう外国人素敵でしょ」「こういう人間関係素敵でしょ」というご都合。

そして、そのご都合を実現するにあたっては、そこに何の論理もないし、葛藤もない。全て雰囲気だけの映画。

その女性像や、外人像や、人間関係を描く為に、「為だけに」登場する、人生を持っていないような薄っぺらなキャラクターが出てきて、観客を嫌な気持ちにさせない程度の事件が起きて、癒しを壊さないように解決されていく。

 

この映画で、ひとつストーリーらしいものがあるとすれば、それは「かもめ食堂を繁盛させること」と思う。しかし、個々のエピソードはこの「かもめ食堂の繁盛」とは何も関係がなく、とにかく、上記の「素敵でしょ」を言うだけのものになっている。

そして、当の「かもめ食堂の繁盛」も、何となくボヤーッと達成されていく。せいぜい思いつきでシナモンロール焼いたくらい。試作品で作ったおにぎりは結局販売していないし、そもそもおにぎり売れてないじゃん。

 

ストーリーを強化する方法はいくらでもある。

店を繁盛させることが、サチエにとってどういうことなのか描く。ミドリが提案したように、店を繁盛させる工夫をする。せっかく店が繁盛しかけているときに、酔っ払いのおばさんが店で暴れて、客が来なくなってしまう、とか。ミドリが就労ビザを持っていなくて問題になる、とかね。月並みな映画になってしまうけど、単純に、目標を設定して、そこに向かって苦労して、葛藤を描けばいい。

ただ、この映画はそういうことはしない。というかこの監督はそういうことはしない。苦労は描かない。癒しにマイナスだから。

「月並みな映画になってしまう」くらいなら、このままでいいじゃないか、と言われれば、そりゃそうだ、となる。だから別にこういう映画があってもいいんじゃないかと思う。

 

ただ、例えば、ミドリが突然泣き出したときに、サチエがティッシュを差し出して、何も聞かない、というシーンがある。

これは監督的には、「ほら、こういうときに、あえて詮索しないのって素敵でしょ」ってことが言いたいんだろう。ストーリーや人物の描き込みがしっかりしてある映画ならグッと来るんだろうけど、こんなペラペラな映画でそれをやられても、「キャラクター設定がないんだろうな」としか思わないよ。

てなシーンやエピソードが羅列されているだけの映画。映像が綺麗なのも半分くらいは場所のお陰なんじゃないか、という気もするし・・・。

 

本当にいい人間像や、人間関係を描きたければ、やっぱり、しっかりとしたストーリーは必要なんだな、と観ていて思った。この映画は、気持ちの良い事しか起きないから、結局キャラクターの一面しか見えない。それでそこだけ見せられて「素敵でしょ」と言われても、ちょっと警戒心のある人なら、そんなペラペラな気持ち良さには乗っかれないでしょ。

 

「こういう映画もいいじゃん」という人がいてもいい。だけど、よくできた良い映画ではない。余計なお世話なのは承知の上で。